Report

ドイツだより

号外: アーティスト ベルント・リーベルト氏

特定非営利活動法人 芸術と遊び創造協会認定「おもちゃコンサルタント」の一之瀬さんが深く興味を持たれた、『BELI DESIGN社』の作品。

 

その中でも、特に美しい作品の1つである「色彩のラビリンス(独名・Turn Winkel)」について、作品のアーティストであり、BELI DESIGN社の創始者でもあるベルント・リーベルト氏に、その製作活動についてインタビューをしてくださいました。残念ながら、現在では「色彩のラビリンス」は、製造されておらず、手には入りませんが、ベリさんのアーティストとしての考えや、作品に対する思い、彼のこれまでの軌跡を知って頂けるとても有益なインタビューとなっています。

 

一之瀬さんとベリさんのQ&Aをここでご紹介させて頂きます。
 

Q1: 色彩のラビリンス(Turn Winkel)のアイデアはハンブルグでデザインを学んでいた時期(1972-1976)に思いついたそうですね。
       色彩のラビリンスの後、どのようにアイディアを発展させ、「ベリアート・キューブシリーズ(Würfel-TURN)」、「イマジネーションアイ(Einauge)」
       「玉のグミターン(Gummi TURN)」や、「クーゲルターン(Kugel TURN)」など、色彩のラビリンスに関連する作品を開発
       したのでしょうか?また、これらの作品に共通する部分と、それぞれに異なる特徴的な部分を教えてください。
       例えばプラスチックのジョイントとゴム紐、ボールと四角いブロックなど、製品には多くの違いがあります。

多くの作品は12個、あるいは6個の「直角」の組み合わせを基本としています。様々なかたちで「直角」が作品に組み込まれています。色彩のラビリンスの場合は、丸い棒を直角に組み合わせています。そして、私の最も売れている作品「クーゲルン(Kugel)」も突き詰めると、色彩のラビリンスと考え方は同じです。クーゲルンの場合は直角がボールの内にあります。ボールの中には直角に交わる穴があり、ゴムの紐がその直角を繋いでいるのです。ベリアート・キューブシリーズでは小さな四角形が直角に繋がっています。
 

 

Q2: 「マグネットレリーフ(Magnetrelief)」「Dreistein」「立体ロムアート(Rhomvario)」「ベリアート・バランス(Beli Balance)」
       など、まったく異なる種類の作品も制作されていますが、なぜこのようなアイデアを思いついたのでしょうか?
       またあなたの作品ラインナップ全体から見て、それぞれはどのような役割を果たしているのでしょうか?

基本的な考え方は、構成主義的に「組み合わせによって形をつくる」という事です。これは数学と幾何学に基づいています。単純で幾何学的な(規則性のある)形でも、それらを組み合わせることで興味深い形の物体を作り出す事ができます。また、多くの物体は立方体を構成主義的に分解した形状が元になっています。たとえばマグネットレリーフの表面は、ノミで立方体を分割することで生み出されています。
 

 

Q3: 「構成主義」はあなたのデザインにとって重要な要素の1つだと思います。10歳の子供に「構成主義とは何?」と訊かれたら、どのように説明しますか?

10歳の子供も構築主義を感覚的に理解していると思います。例えば私が子供の頃、サイコロの反対側の面を足し合わせると常に7になることに気づきました。3の反対には4があり、1の反対には6があり、5と2の合計も7になります。これは興味深く、また良く考え抜かれたデザインだと感じました。
 

 

Q4: すべての色彩のラビリンスをベリさんが手作りしていた時(1980年より以前)、どのように素材をえらび製作していましたか?
       また、現在ではどのように作られているのでしょうか?

私はDIYショップで丸棒を購入していました。その頃の丸棒は一種類、パイン材しかありませんでした。ノコギリを使って、手作業で丸棒を切断し、ドリルスタンドで穴を開け、直角になるように接着しました。接合部分は金属製のネジで固定していました。現在では自動化された機械で製作しています。
 

 

Q5: 色彩のラビリンスやその仲間たちを通して、ベリさんが子どもや親たちに伝えたかった事は何ですか?

突き詰めると「ひとつの物体のなかで『直角の部品』同士がどのように動くのか?」という事が、私自身が興味を持っている事です。手作りの作品を販売していた時、他にもこのようなデザインに興味を持っている人たちがいる事に気づきました。
 

 

 

Q6:色彩のラビリンスやその仲間たちとの50年にわたる歩みの中で、特に重要な出来事を教えてください。色彩のラビリンスは、1970年代にハンブルクに住んで
       いた頃に始まり、その当時はご自身で製作し、フリーマーケットやクラフトフェアで販売していました。その後、1980年のニュルンベルク玩具見本市で発表
       され、そしてドイツ国内だけでなく、日本、カナダ、アメリカなど多くの国々で販売され、台湾でも生産されるようになりました。
       色彩のラビリンスやその仲間たちと素晴らしい時間を過ごし、一緒に成長した子どもや親たちが数えきれないほどいます。
       その子供たちはすでに親になっているかもしれません。とても素晴らしい50年間だったのではないでしょうか?

はい、すべてが興味深い展開でした。「重要な出来事」というのは良い表現ですね。ニュルンベルクの玩具見本市に初めて行った時のことを思い出します。そこで、ラウアー・トイズのデザイナーと出会いました。彼らの玩具もまた、構成主義的なアイディアを基礎にしていました。そのブースで色彩のラビリンスを一緒に展示させてもらえる事になったのですが、それはビジネスの世界からもらった初めての励ましだったと思います。
もうひとつは、カナダの玩具メーカーが私の玩具をライセンス生産したいと申し出てくれたことでした。そのパパ・ジェペット
                        という会社は、ゴム紐とボールでできた子供向けの玩具「スクイッシュ」などをカナダの工場で製造していました。
                        現在、スクイッシュは米国のマンハッタン・トイ社で生産されていますが、私のクーゲルンも「ベビービーズ」という名前で
                        生産されています。
 

 

Q7: この50年の間には、多くの困難があったのではないかと想像します。
       どのような大きな困難があったのか、それをどのように乗り越えたのか、教えてください。

私は一人で仕事をするのが好きなので、営業の世界は私にとって困難の一つでした。しかし、仕入れ担当者の方たちとお話しする事は、大抵の場合、とても楽しく刺激的なのだと気づくことができました。
 

 

 

Q8: もし色彩のラビリンスやその仲間たちを次の世代に引き継ぐとしたら、彼らに何を期待しますか?
       変更すべき点、あるいはそのままにしてほしい点はどこでしょうか?

私の作品たちは、最も適した形式で設計されており、他の形式では成立しません。ですので、私は「組み合わせによって形をつくる」という基本的な考え方そのものを引き継ぎたいと思います。
 

 

 

Q9: 新しいアイデアはどのようにして思いつきますか? また、現在最も興味をそそられているトピックは何ですか?

最新のキューブ型パズルである「Cube123」の内部構造が左右反転したもの(鏡像になったもの)を作りたいと思っています。 これはなかなか難しいですね。キューブの直角を再配置しなければなりません。 
 

 

 

Q10: 色彩のラビリンスやその仲間たちと、日本市場や日本のお客様に関連して、何か特別な出来事やエピソードはありますか?

もちろん、ブラザー・ジョルダン社のスタッフの方と出会いです。祐子さんとは長い間個人的にお付き合いさせていただき、以前、ご主人と一緒にドイツにいる私に会いに来てくれたことがあります。ご主人が鉄道好きなので、ドイツとデンマーク間の鉄道を見たいということでした。当時は列車がフェリーに乗って、1時間足らずでデンマークに入国していました。現在では長いトンネルが建設されたため、その路線は無くなってしまいました。残念な事に、彼女とは連絡が途絶えてしまいました。もしかしたら、彼女がこれを読んで、メールアドレスを教えてくれるかもしれませんね。
 

 以上が一之瀬さんのベリさんへのインタビューです。

 

【最後に…】
一之瀬さんよりコメント

       見た目の美しさと楽しさに惹かれて衝動買いした「色彩のラビリンス」に、これほどのアイデアと想いが詰め込まれている事を知り、
       そんなおもちゃと一緒に幼年期を過ごした我が家の子供達は(そして私たち親も)本当に幸せだな、と思いました。
       ベリさん、素晴らしい時間をありがとうございました。
       そして今後もブラザー・ジョルダン社を通じて、素晴らしいおもちゃと出会える事を楽しみにしています。