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ドイツだより

vol.3: 旬の味覚 -ホワイトアスパラガス-

風味といい、歯ごたえといい、やっぱりお日様の光を存分に受けて青々と育ったグリーンアスパラが好き。白はなんだか頼りなくって、いかにも日陰者って感じ。ブロッコリー対カリフラワーもこれに然り。…と思い続けてきた私ですが長年ドイツで生活している内に、この日陰育ちの人気者の味を無視できなくなってきました。
アスパラのシーズンが始まるのは3月末から4月初旬。初物に目のない消費者をねらって、新年ごろから、はるばる遠方からやってきたブラジル産などの輸入品も見られます。

 

でも、なにより新鮮さが命のアスパラ(ドイツ語ではSpargel:シュパーゲル)ですから、ドイツ人のドイツ産シュパーゲルへのこだわりは並大抵ではありません。毎年春先になると、今か今かと収穫を心待ちにし、「ついに出たね。もう食べた?」「私まだ。なんだかまだ寒すぎて、シュパーゲルって気分にならないよ。」「そんなの関係ないでしょ!うちじゃもう2回食べたわよ。」「さすが、すごい執念!でもまだちょっと高いんじゃないの?」などと、職場や友人同士で例年おきまりの、こんな会話があちこちで聞かれます。
そしてシーズン終了の6月中ごろまで、今のうちに一本でも多く食べとかなくっちゃ…と半ばウキウキ半ばそわそわとした切迫感がシュパーゲルの回りに張り詰めているような感じです。

そこで今回は、今を時めくキッチンのスター、シュパーゲルをご紹介いたします。

 


栽 培
うねをつけた畑に、1~2年程度の若い植物から採った根の塊を植えつけるのが秋の作業。翌年の春、芽吹いた苗にたっぷりの土をかけて覆い、畝をさらに20cmほど高くします。この年から収穫が始まり、手入れ次第で同じ苗から10年間近く収穫されます。

 

収 穫
『地中から伸びてきた芽が、表面の土をやぶってまさに地上に出てこようとする気配』が収穫に絶好のタイミング。きっと竹の子堀りみたいに、地面が若干こんもりと見えたところを狙うのでしょう。そこを手で掘り起こし、適当な位置を見定めて専用の用具で切り取ります。シュパーゲル収穫機なるものはアメリカやオーストラリアで度々開発されているそうですが、未だ普及にいたるほど優れたものができたためしがないそうです。そこで一本一本、人の手で収穫されます。主に東欧の国々から、低賃金の季節労働を目当てにやってくる出稼ぎの人々の働きなくしては、ドイツのシュパーゲル市場は成り立たちません。

 


等 級
収穫後のシュパーゲルは機械で太さごとに選別されます。太いほど等級が高くなります。上に述べた収穫のタイミングを逃すと、日光を受けた先端が淡いすみれ色や黄緑に色づきます。
こうなったら、たとえ太さで条件をクリアしていても特級や一級としては取引されません。つまりシュパーゲルはあくまで純白、陽光に一切さらされないほど高級というわけです。この写真のようにうねに覆いをかぶせた畑もあるのは、この白肌を守るため。初めに『日陰者だからいまいち…』などと述べましたが、これはまさにシュパーゲルの何たるかが分かっていない素人の暴言ということになりますね。ところが、お国変われば評価の仕方も変わるもので、あえてほんのり色づくタイミングを狙って収穫される種もあり、フランスではこちらが人気だそうです。(ひょっとして絵心の違いかな?)

 

鮮度テスト
芽はグリーンアスパラのように開いていてはならない。切り口がカラカラに乾いているのはよろしくない。切り口近くに爪を当てると水分がでてくるぐらいみずみずしいのが良い。両手の手のひらに数本挟んで、きりもみの動作で互いを擦り合わせたときキュッキュと音のするのが良い。

 


食べ方
スープ、サラダ、グラタン、キッシュ…と、用途は様々。でも最も一般的なのは、ゆがいて好みのソースで食べること。添え物として相性がいいのは、ハムや生ハムと塩茹でのジャガイモ(新ジャガなら尚のこと)。また、パンケーキでシュパーゲル、またはシュパーゲルとハムをくるんでソースをかけるのもおしゃれです。そしてその数ある『好みのソース』の中で一般的なのは、

 

  1. たっぷりの溶かしバター
  2. オランデーズソース(溶かしバターと卵黄を湯せんにかけて泡だて器でかくはんし、レモン汁、白胡椒、塩で味をととのえたもの。家庭ではインスタント製品の利用が一般的)
  3. ①も②もバターこってり。煮汁を使ったややあっさりソース(次ページにレシピを紹介します)

 


さくらんぼとバトンタッチ 古くからの農家の言い習わしに、『サクランボが熟したらシュパーゲルはおしまい。』という言葉があります。Kirshen rot, Spargel tod.:キルシェン ロート(英:red)、シュパーゲル トート(英:dead)と韻を踏んでいますので、『桜桃の赤、アスパラの墓』と大胆に訳したら、ドイツ語の先生に叱られるかなぁ…。
正式に収穫が終わるのは夏至が過ぎてまもなくの聖ヨハネの日(6月24日)。

 

日本でも北海道産ホワイトアスパラが年々高い注目を集めていると聞きます。繊細な味を活かし、日本の他の食材とも調和させた魅力的なレシピもたくさんあるようですね。
当地で目下大人気のシュパーゲル、皆様のお気にも召しますでしょうか?それでは次に、ソース③のレシピをご紹介します。

Guten Appetit! (:グーテン アペティート=美味しく召し上がれ!)

 


材料(3~4人分)
ホワイトアスパラ(表皮を煮出して使うのでなるべく有機栽培のもの)1.5Kg、塩、砂糖、バター少々。ソースの材料:バター30g、小麦粉30g、塩と白胡椒少々、レモン汁または白ワイン大さじ1、生クリーム100g、卵黄1、バター20g

 

 

  1. アスパラの芽の下から切り口に向かって表皮を剥く(写真)。切り口に近づくほど皮が硬くなるので、上は薄め、下は厚めに剥く。切り口が乾燥して固い場合は若干切り取る。
  2. 表皮と切り取った部分をよく洗って鍋に入れ、水(0.5?程)を加えて火にかけ煮汁をとる。
  3. 別鍋に湯を沸かし、塩と砂糖(塩だけで茹でると苦味が増してしまうので、砂糖でまろやかさをアップ)、バターひとかけらを溶かしてアスパラを入れ、中火で茹でる。茹で時間は太さによって10~15分。全体に少し透明感がでて、フォークに真ん中を乗せると左右に若干しなうのがちょうど良い茹で加減。 このとき二つ折りになってしまったら明らかに茹で過ぎ。茹で上がったアスパラの水をよくきる。(芽の方が切り口よりも早く茹で上がるので、写真のようなアスパラを縦に入れられる専用鍋もあります。これを利用する場合も、芽の煮すぎを避けるため上まで湯には浸しません。普通の鍋で茹でるなら、半分に切って、下半分からゆで始め、時間差をおいて上半分を加えるという手段も効果的です。)
  4.  ベシャメルソースを作る要領で、溶かしバターに小麦粉を入れて軽く炒ったあと、②の煮汁で少しずつのばしていき、アスパラを茹でる時間を利用して混ぜながら煮詰める。
  5.  塩、白胡椒、レモン汁または白ワインでソースの味を整え、生クリームを加えてさらに煮たあと火をゆるめ、少々の生クリームに混ぜ合わせた卵黄を加えて溶きのばす。最後にバターの小片を加えて溶かす。(私風:一口大に切ったカニカマボコを手で細かく裂いてこのソースに入れてみたらいけました)

 


季節のスター食材ですから、茹でたあとの湯さえ捨てず、スープにして飲む人もあります。利尿、解毒の効果もあるうえ香りがいいので、確かに捨ててしまう手はありません。私の定番は、これを冷蔵庫に保存しておき、白を食べた2~3日後に、グリーンアスパラ、ハムまたはベーコン、たまねぎ、アボカド、ゴルゴンゾーラなどでリゾットを作るのに使ったり、パスタを茹でる湯に加えて香りを移します。また、③のソースで表皮を煮出すことに抵抗のある方は、この茹で汁をご利用下さい。

 

vol.3『旬の味覚 -ホワイトアスパラガス-』終わり