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ドイツだより

vol.6: ゲームオブザイヤー

8月2日、今年もゲームオブザイヤー賞が発表されました。
この賞はドイツ語圏の玩具メーカーが開発したボードゲームとカードゲームのニューアイテム (正確には、前年後期から該当年3月までに発売が開始されたもの)の中で、最も優秀と評価された製品に授与されます。
『ゲームオブザイヤー(一般)』と適応年齢を8歳までに絞った『ゲームオブザイヤー・子どもゲーム』の両部門を合わせれば、毎年約500点近くの製品が審査対象となります。

 

数ある候補作の中で、子供の部における大賞の誉れに輝いたのは、おなじみHABA社の《ドラゴン・ディエゴ》
それではまず、本受賞作品のご紹介にて、今回のドイツ便りをスタートしましょう。

 


子どもゲームの部・大賞受賞作《ドラゴン・ディエゴ》はビー玉を使って遊ぶゲームです。パッケージを開けると、中箱がスロープ状になっています。
スロープの上3箇所に小さなくぼみが あり、ここにビー玉を乗せて発射地点とします。そしてスロープの下には6つに区切られたターゲットがついていて、それぞれを区別するため、各 区切りに王冠や剣などのモチーフが描かれています。同様のモチーフがそれぞれプリントされた 6枚ひとくみのカードを各自に配ります。
ゲームの進行中、各プレイヤーの持ち駒《ドラゴン》はパッケージの縁を巡るように進みます。 スタート地点にみんなの持ち駒を差し込めば、準備は完了です。

 


自分の順番がきたプレイヤーは、まず手持ちカードから1枚を引いて、どのモチーフが描かれているかを確認し、他のプレイヤーにはそれを見せずにおきます。
実はこのカードに描かれた絵がビー玉で狙うべきターゲットとなりますが、これは他のみんなには内緒だからです。目当ての絵に狙いをつけて、ビー玉を発射地点からうまく転がしましょう。プレイヤーがドラゴン、そして赤いビー玉をドラゴンが口から吹き出す炎と見立てて、自慢の技を試しているのだと想像してください。

 

ただし、うまくいってもあからさまに喜んだり、はずれたからといって悔しそうな顔をみせるのは禁物です。ドラゴン役が3つのビー玉を使い終わったら、他のプレイヤーはこれと思った絵カードを出し て、このプレイヤーの狙いはどの絵だったのかを当てます。思惑をみごとに当てたプレイヤーは1歩ドラゴン役のプレイヤーはターゲットを射止めた数だけ、それぞれ持ち駒を進めることができます。
全員が3回ドラゴン役を終えるまでゲームを続け、終了時点で最も遠くに駒を進めたプレイヤーの勝ちとします。

 


「こんな単純なゲームが大賞受賞製品?」との感想をもたれる方も少なくないかもしれません。
実は私自身、期待して待っていたのにちょっぴり拍子抜けというのが正直な印象でした。
それでは、現場の声に耳を傾けてみましょう。
大賞発表時、会場を訪れていた小学生のアンニャちゃん(8歳、女子)は、審査員の評価に満足と、次のように受賞作 の良さを語りました。

 

「なんてったてルールが簡単。長くて分かりにくい説明書を何度も読み返す必要がないし、箱を開ければゲーム盤になっているから、ボードを組み立てたりして準備をする手間もなく、すぐにゲームを始められるのが最高!」

…なるほど子どもたちは、遊びたいのに待たされるのが我慢ならないんですよね。
HABA社は《海賊ブラック》や《カヤナック》で、過去にも多くの大賞受賞とノミネートの経験を誇ります。社を代表して会場にみえたホップ氏は、ルールの明瞭さに加え、「ビー玉を使った操作の巧み を競う一方、他のプレイヤーの意表をつくような表情や態度が求められるので、器用な子が勝つとは限らない。これが《ドラゴン・ディエゴ》の魅力」とコメント。 「だからこそ、年齢差の違う子供同士も、また大人を交えても対等におもしろく遊べて、繰り返し遊んでも飽きがこない。」と、自信たっぷりに太鼓判を押しました。

審査委員会は、最終審査段階で5点に絞られたノミネート製品を「いずれも甲乙つけがたい。」と評し、各メーカーがますます水準を上げているのを賞賛しつつ、操作中のプレイヤーだけでなく常に全員が参加するという《ドラゴン・ディエゴ》の遊び方を特に高く評価しました。

 


審査について

ところで、このゲームオブザイヤーを「ニューアイテムの中で最も優秀と評価された製品」と冒頭に定義しましたが、それは一体誰の審査、そしていかなる評価基準によるものなのでしょう?
このことをお話しするために、NPO団体であるSpiel des Jahres(シュピール・デス・ヤーレス=英訳はゲームオブザイヤー)を以下にご紹介します。

 

 

団体とその活動
NPOシュピール・デス・ヤーレスは、ボードゲームやカードゲームの文化を社会一般と家庭にいっそう広めることを目的としています。

そのためには、消費者がゲームを購入するにあたって指針となるものが必要ですが、それは、メーカーの広告からだけでは得られない、真に消費者側の立場に立ったものでなければならないと、この団体は考えます。

そこで1979年以来ゲームオブザイヤーの選考を行い、大賞授与と共に、ノミネート製品や推奨製品のリストを公表しています。

これまでの実績から見て、大賞受賞製品の売り上げは平均10倍にアップします。つまり、それほどドイツ市場において消費者の信頼を得た賞とご理解いただいて間違いありません。

大賞受賞製品とノミネート製品にはジョルダンのカタログでもおなじみの、ゲームの駒をかたどったシールが貼られます(赤い駒は一般部門、青い駒は子どもゲームの部)。

営利団体ではありませんので、シールのライセンス料金をメーカーから徴収することによって活動資金にあて、ゲームオブザイヤーの選考と授与以外にも、年間を通じ以下のような活動を行っています。

 

  • 各地におけるゲーム会の催し
  • 見本市への出展
  • ゲーム作家をめざす人々への奨学金支給
  • 地方自治体の協力を得て、病院の小児科病棟にお薦めゲームを供給

 

また近年では、「ややもすれば何時間も誰とも言葉を交わさずに過ごしてしまうコンピュータ・ゲームの人気の影で、遊ぶ者同士の対話を促すボードゲーム類の良さが忘れ去られてしまわないように。」との願いもこめて、
活動に力を注いでいるということです。

 


審査員
一般と子どもゲームの部、それぞれ別の審査委員会が設けられます。子どもの部の審査員は6名で、NPO常任会員からの3名に加え外部より3年ごとに交代する3名を招いて構成されます。
これらの審査員は、ゲーム評論を専門分野のひとつとして活躍するジャーナリストの方々です。執筆のため、日頃から色々なゲームを幼稚園や学校の子供たちにテストさせる機会をもっていますので、
大人が選考する『ゲームオブザイヤー・子どもゲーム』ではありますが、子供たちの声も間接的に反映されているわけです。審査会議を幾度も繰り返し、ノミネート製品がようやく5点に絞られるのが毎年5月。最終審査の発表は夏に行われます。

 

評価基準

『一般』『子どもゲームの部』とも、評価のものさしは共通です。

  • オリジナリティーに富んだアイデア
  • ルール(ルールそのものと説明書)の親しみやすさ
  • 機能性に優れ、製品として高品質であること
  • 子供のゲームにふさわしいレイアウト(ゲーム本体、パッケージ、説明書を含む)

 


子どもゲーム部門は今年で10周年
先にも述べましたように、ゲームオブザイヤー賞のおいたちは1979年にさかのぼります。

ただし、賞は元々一般部門のみに限られていました。賞の歴史が一昔を数えた1989年、セレクタ社製品《Gute Freunde(グーテ・フロインデ)》に特別賞が授与されたのをきっかけに、子どもゲームの中から毎年特別賞が選ばれるようになりました。

 

(※画像参照・日本語名:グッドフレンド) 製造終了品)

そしていよいよ2001年、『子どもゲームの部』が独立部門として成立したのです。

セレクタ社といえば、毎年比較的少数のユニークなゲームをそれぞれ丁寧に製作しているのが際立ち、 《おしゃれパーティー》、《ねことねずみの大レース》では、2002、03年連続の大賞受賞という快挙を成し遂げました。

同社からは今年も、ノミネート製品および推奨ゲームリストに2点のニューアイテムが選ばれています。
※ノミネート作品・SE3597:「Turi Tour」 , SE3595:「消えた宇宙船を探せ!」の2アイテム。

 


さて、日本でも人気の《ねこねず》ファンの皆様は、ここで今日の『振り出しに戻って』いただき、大賞受賞作《ドラゴン・ディエゴ》に別アングルからご注目ください。
実はこのゲームの作者は誰あろう《ねこねず》考案者でもあるマンフレッド・ルートヴィッヒ氏、つまり両製品はメーカーこそ違え、同じ生みの親をもつ兄弟と呼べるわけです。
それでは、皆様のショップやご家庭の棚に、個性溢れたゲームの数々が仲良くコレクションされた様子を思い浮かべつつ、今回はこれにて『あ・が・り!』来月は『一回休み』なんてさぼっていないで、メーカー訪問第二弾をご用意しています。

訪問ターゲットは、ゲームオブザイヤー《ドラゴン・ディエゴ》にならって、『まだ内緒』ということにしておきましょう。
※ドラゴン・ディエゴ・Turi Tour・消えた宇宙船を探せ!は全て製造中止品となります。

 

vol.6『ゲームオブザイヤー』終わり